鍼灸の不思議と亡き師の教え

今は亡き師の教えで「こころが病めば、からだも病み、からだが病めばこころも病む。」と、よく云っていた。

しかし、なかなか実感出来なかったが、この教えは、臨床、特にこころの病の患者を経験するうちに初めて感ずることである。

生命体は、気を一元として、こころとからだが一体の相互関連系にあり、その働きは、共に経絡に依っていることを、言いたかったのではないかと思う。

つまり、人体の組織、器官は、みな異なった機能を持ちながら、相互に影響し合い、全体として有機的につながりを持った統一体を形成していると、今になって考えるのである。

このように、師の教えに今さらながらに気付かされていることが数多くあり、当時学んだ資料を元にまとめたいと思っている。

 

鍼灸の臨床に携わっていると、現代の医学的常識では説明できない「不思議な現象」にしばしば出会う。生きている人間の体について、私が気付かなかった「未知」の事実に直面する日々と云える。

分かりやすい例として逆子の治療の実例を以下に掲げる。

32歳女性、妊娠8ケ月である。

祖脈:虚実、浮沈、遅数いずれも平 全体的に良好な脈状である。

六部定位脈診:脾虚 

本治法として太白、大陵。また脾経と肝経の要穴を選ぶ。

そして、なんといっても至陰と三陰交である。

全て、鍼(ていしん:刺さないはり)による治療である。

後日、逆子が正常になっているとの報告があった。

本治法が効いているのか、至陰と三陰交だけで効くのか分からないが、灸もせず、しかも鍼だけ一回の治療である。

胎内の気が整い、自然治癒力により本来あるべき姿に回復したということであろうか、鍼灸による逆子が治るのは、よく聞く例である。

このように西洋医学では治らなく、東洋医学ならではの例はよくある。

 

注:鍼(ていしん)とは

現存する中国最古の医学書で、東洋医学ではバイブルである、『黄帝内経』(こうていだいけい)の『素問』に載る古代九鍼の一つで、刺さないはりである。

経穴に少し圧を加えるだけである。

 

因みに『黄帝内経は、現在、書写されたものが、京都仁和寺にある。

わたしは、これを偶然、上野の東京国立博物館で目にしたことがある。

仁和寺は、真言宗御室派(おむろは)の総本山であるが、「仁和寺と御室派のみほとけ」 という特別展をしていたときである。

阿弥陀如来坐像などの仏像や、関係の深い弘法大師空海が、唐で書写して持ち帰った真言密教の経典などが展示されていた。

その展示物の中に『黄帝内経』も展示されていたのだ。

誰が中国より書写して持ち帰ったかは知る由もないが、おそらく遣唐使として行った僧侶が持ち帰ったと思われる。                         

                                  以上

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京都仁和寺金堂  古代九鍼

 

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黄帝内経