天皇陛下の即位を記念して、奈良・正倉院に伝わる宝物が、東京にやって
来ます。
東京国立博物館で、10月に御即位記念特別展「正倉院の世界」が開催されます。
皇室が守り伝えてきた正倉院宝物と、法隆寺献納宝物の代表作を中心とした
約110件の宝物が紹介されます。
正倉院宝物は、光明皇后が聖武天皇の遺愛品をはじめとする品々を東大寺大仏
に捧げたことに由来し、日本で製作された美術工芸品や文書類だけでなく、大陸
から持ち込まれた品々も含まれています。
今回の展示で特に注目されるのが、現存する唯一の五絃琵琶の
「螺鈿紫檀五絃琵琶」(らでんしたんのごげんびわ)と20面の鏡のひとつである
螺鈿紫檀五絃琵琶は、インド起源の五絃琵琶として唯一現存する楽器です。
バチ受け部分に、ラクダに乗って琵琶を奏でる人物があしらわれ、シルクロード
を通じた文化交流を伝えています。
また、平螺鈿背八角鏡は、正倉院の北倉に保管されていますが、良好に保存され、
八世紀に唐からの請来品であるとされています。
因みに螺鈿は、奈良時代に唐から伝えられ、楽器などの装飾に使用されたもので、
螺は貝、鈿はちりばめることを意味します。使用される貝は、夜光貝、白蝶貝
などです。
そして、わたしが注目するのが、「赤漆文欟木御厨子」(せきしつぶんかんぼく
のおんずし)です。
数ある正倉院宝物の中でもとりわけ重要なものです。厨子そのものは、工芸的
に目覚ましい効果をもつ品ではないのですが、その由緒において、他に類をみない
特徴を備えています。
飛鳥時代の天武天皇から、聖武天皇の七七忌に際し孝謙女帝が、この品を東大寺
大仏に献ずるまで、歴代の天皇によって伝領されてきたのです。
天武天皇から持統・文武・元正・聖武・孝謙の歴代天皇に伝領されたという由緒
正しい品です。
令和の元号になって、女性天皇の話題がメディアで賑わしていますが、
そのうちの持統、元明、元正、そして聖武天皇皇女であります孝謙天皇の
4人が、この伝領に関わっていることになります。
このような事を念頭において、この扉付き置き棚の厨子を鑑賞するのも
一興だと思うのです。
尚、奈良国立博物館でも同じ時期に開催されますが、いつもながら、
どちらも大変な混みようが予想されます。