東洋医学からみた腰痛治療

東洋医学の道に入ったとき、先ず臨床で最も多く出会うのが腰痛治療です。

患者の疾患の割合は、腰痛が30~40%程度、そして関節痛、肩こりなどが続きます。

西洋医学では、腰痛の病理、病因を知覚神経の障害とみなすため、一般的に腰椎の異常、椎間板の突出などを原因としています。

そして腰痛をX線などの骨格映像で診察するため、腰筋の変調は診断しません。

西洋医学的に、腰痛といえば、腰椎椎間板ヘルニア、腰椎脊椎間狭窄症、腰椎すべり症などからくるものが多いのです.

 

「腰痛は鍼灸で治すべきもので、病院では治せない、腰痛を治せなくては鍼灸師としてなりたたない。」(池田政一:『鍼灸治療室』医道の日本社刊)

「腰痛と肩こりは先ず鍼灸院へ、というのが常識。主・副訴を含めて40%が腰に異常を感じている。(首藤傳明『医道の日本』誌)

など諸先生からの言葉でも分かる通り、「腰痛を治せなくては鍼灸師といえぬ」と云えます。

しかしながら、腰痛は、原因、疾患箇所、程度、経過など千差万別で、最も治療が難しいとも云え、諸家の考え方や治療法も多説多様あるのです。

 

わたしの東洋医学からみた腰痛治療ですが、先ず五臓の基本証(脈証)を調整することから始めます。

東洋医学から考える全ての疾病の原因は、「臓の経気の虚」であるからです。

脈診(六部定位診)による本治法により、腰痛部位に関連する経絡判定と調整をし、次に腰痛部位に対する直接的な治療である標治法を行います。

臨床では、病症と見合わせて、本治法、標治法の二法を適宜応用して治療します。

一般的な腰痛を、発現部位の経絡で大別すると①膀胱経性②胆経性③督脈性④複数の経絡による合併性などに分類できます。

一般的に、腰部疾患と深くかかわる臓(陰経)は腎経と肝経です。

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足の少陰腎経

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足の厥陰肝経

腰は「腎の府」とされ、腎気の府聚(集まる)するところです。腎と直結する腎経腎兪(第2、第3腰椎突起の傍ら1寸5部)やこれに付属する志室穴(腎兪の傍ら1寸5部)は腰部に存在します。(注:腎兪は膀胱系一行線、志室は、同二行線に所在。志室の穴名は『素問』脈要精微論編にある「五精」のうち「腎は志を蔵す」ことに所以)

 

腰部で腎・肝と関係する経絡を纏めます。

<膀胱経と胆経>

腎肝などの臓に病変があれば、これと流注を結び表裏の関係にある陽経に実的症候が現出します。(『素問』調経編)

足少陰腎経の表裏経は、足太陽膀胱経です。一般的な腰痛は、膀胱経(脊柱起立筋)に現れ易いのです。(『霊枢』経脈編)

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足の太陽膀胱経

足厥陰肝経の表裏経は、足少陽胆経です。肝虚胆実(上実下虚)による上衝疾患は、腰、股関節部、下肢の胆経上に疼痛(腰痛)を発現させることが多いと云えます。(注:胆経は、腰部股関節中に深く流入しています。『霊枢』経脈編)

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足の少陽胆経

<督脈>

腰痛は、督脈上の腰椎部に現出することが少なくありません。督脈の流注は、腰部で腎を絡い、その経穴の長強(尾骨直下)で別絡を起こし、膀胱経の会陽と強く連絡します。その支絡は八髎穴(膀胱経)をめぐって臀部を貫きます。

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督脈

督脈の流注は、ほとんど膀胱経の本経そのもといってよく、二者一体となっています。(『素問』骨空論編)

長強には、腎経が陰谷から流入し、脊柱(督脈)を貫き、腰部域に展開します。(『霊枢』経脈編)

長強は、肝経、胆経とも交会します。肝経は、督脈と百会でも交会しています。

この他、婦人科に関係する衝脈が、長強を通って督脈、膀胱経を介して背部に流入するすると想定されています。(『霊枢』海論編)

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衝脈

以上纏めて云いますと、腰部には、腎経、肝経、膀胱経、胆経、督脈、衝脈が、長強などを介して流れ合っているといえます。

このことは、経絡的腰痛治療の選経、選穴上、重要な意味を持ちます。

 

具体的な膀胱性腰痛、督脈性腰痛、胆経性腰痛の治療上の経絡、経穴については、長くなりますので、また別の機会といたします。

 

実際の治療で使用している鍼灸の用具について紹介します。

わたしが、本治法で使用している刺さない鍼、鍉鍼(ていしん:中国古代九鍼の一つ)です。消毒が不要、無痛という利点があり、3本の鍉鍼を使い分けています。

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鍉鍼

腰痛には温熱治療として灸頭鍼、棒灸をよく使います。

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灸頭鍼

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灸頭鍼

鍼の頭部に灸を付け、鍼からの熱と輻射熱で温めます。


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棒灸と灰皿

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棒灸による治療 患部にタオルをかけ、棒灸を直接付けます

長年ネパールで、鍼灸ボランティアをしておりましたが、裸足の人、雨でも傘をささないのが普通なので、体が冷えていることもあり灸頭鍼、棒灸を多用します。

                                   以上