横浜の仏像 しられざるみほとけたち

 先日、新聞紙上に「横浜の仏像」という展示会が横浜歴史博物館であることを知りました。横浜の仏像ってあまり聞いたことがありません。

横浜歴史博物館も初めて聞くのですが、1月下旬から公開しており今月21日までということや最近東京に見たい仏像がやって来ないので、行くことにしました。

 平日なので見に行く人もいないのではと思ったのですが、意外に賑わっておりました。念のためオンラインチケットを購入しておいたのですが、これが功を奏しました。結構並んでいて、待たずに入れ良かったのです。仏像に興味のある方が多いのかと感じます。

 飛鳥時代から南北朝時代までの横浜の仏像の変化を、体系的に見ることができるという特別展でした。東国にも飛鳥の仏像が来ていたのかと驚きました。

まず入口の前に、横浜市泉区・向導寺の阿弥陀如来坐像(平安時代11世紀)がおりました。傷みが激しい仏像で、関東大震災で大破したようですが、定朝様を思わせる、記念碑的な作品として展示されております。

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阿弥陀如来坐像 横浜市指定有形文化財第1号で、傷みが激しく痛々しいお姿。

 展覧会場に入って、まず飛鳥時代の仏像で如来坐像(伝阿弥陀如来像)です。詳しい伝来は不明ですが、飛鳥時代の仏像があることが不思議です。像高25cm足らずの可愛らしい金銅仏です。念持仏でしょうか。

元々は、西寺尾八幡神社のご神体として祀られていましたが、明治初年の神仏分離令鶴見区・松陰寺に移されたようです。

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飛鳥時代(7~8世紀)如来坐像(伝阿弥陀如来像)口元が微笑んでいます。

 次に、奈良時代の菩薩坐像で、東国では珍しい脱活乾漆造りの半跏像です。奈良の都で造られたものが横浜の金沢区・龍華寺に伝来しました。 

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菩薩坐像 金沢区・龍華寺 奈良時代8世紀 脱活乾漆造り 兵庫・金蔵寺阿弥陀如来像の脇侍の可能性ありとのこと。

 

 平安時代の作品で、薬師如来立像です。平安後期の仏像は優美で繊細なイメージがあるのですが、地方では素朴な親しみある仏像が作られた、横浜もそのようだったのでしょうか。

螺髪が省略されていて、顔が大きく少しアンバランスです。円空仏のような素朴さ。

 

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薬師如来立像 栄区 證菩提寺 平安時代11世紀 みちのくから伝わったのかも知れません。

 同じく平安時代の菩薩立像(伝千手観音菩薩像)で、青葉区真福寺の本尊です。普通千手観音は42臂ですが、8臂(うち2本は後補)となっており、手が肘から分かれているような異例なお姿となっています。

ふっくらとした丸顏で、東国における千手観音像の古例の一つでしょうか。また頭上には9面ついていますが、これも後補のようです。

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菩薩立像(伝千手観音菩薩像)青葉区 真福寺 平安時代12世紀

 

 栄区・證菩提寺阿弥陀如来坐像です。平安時代1175年頃の作品で、三尊像ですが、中尊のみが展示されています。顔の表情は落ち着いており小粒の螺髪が印象的です。

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阿弥陀如来坐像(阿弥陀三尊像中尊)栄区・證菩提寺

 

 次に、運慶仏の鎌倉時代の作品です。

青葉区真福寺の釈迦如来立像です。京都清涼寺の釈迦如来像は、インド、中国、日本と伝来した「三国伝来の釈迦像」と云われていますが、この清涼寺の釈迦如来像を模刻した清涼寺式の釈迦像です。

 清涼寺式釈迦如来像は、全国で100体近く造像されたようで、頭髪を渦巻状にまとめ、通肩(両肩を覆う)にまとった大衣の衣文線を同心円状に表すなど、当時の中国や日本の仏像とは異なった特色を示しています。

また、この像は切れ長い眉や眼、への字にかたく結んだ唇など特徴ある個性的な表情です。ポスターに飾られています。

 

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釈迦如来立像 青葉区真福寺 鎌倉時代13世紀

 

 次に、同じく鎌倉時代金沢区・慶珊寺の十一面観音菩薩坐像です。 

十一面観音像は、像高43cmの小さな像です。左足は踏み下げていますが、半跏像と違い右足先は左足の上でなく前に外し、くつろいだ体勢で、遊戯(ゆげ)坐像と呼ばれます。この姿勢は中国の宋時代の特徴で、静岡県北条寺の観音菩薩像にも見られます。

鎌倉彫刻らしく玉眼できりりとした顔立ちで、衣の流れは躍動的でさえあります。

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金沢区・慶珊寺の十一面観音菩薩坐像

 

 最後に南北朝時代地蔵菩薩坐像です。この仏像は、静岡県河津町・林際寺からやって参りました。

そのきっかけは、3年前の伊豆の上原美術館の調査により、像内の墨書銘文が発見され、そこには制作年、作者朝栄、かつて横浜金沢の能仁寺(廃寺)のご本尊であったことなどが記されていたのです。従って今回、横浜に里帰りを果たす形となりました。

もともと右手に錫杖、左の掌に宝珠を持っています。

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静岡県河津町・林際寺 地蔵菩薩坐像 朝栄作 南北時代1383年


 他にも数々の特徴ある仏像が展示されておりました。 横浜の仏像が、このように多種多様にあるとは思ってもいませんでした。

この特別展のサブタイトルが「しられざるみほとけたち」とあったのは、正にピッタリで納得しました。惜しむらくは、特別展の会場がやや狭い感じでゆっくり鑑賞出来なかったのは残念です。明日でこの特別展は終了のようです。

 

 尚、この横浜歴史博物館は、常設展において横浜の太古から現代までの歴史を、驚くほどの広さとジオラマなどの展示物で展示しております。また近くに弥生時代の遺跡が発掘され、住居などを復元した大塚・歳勝土遺跡公園があります。この情報は後日とさせて戴きます。

 

追記

 前回、浄真寺の九品仏のことを書きましたが、昨日の新聞紙上で京都の浄瑠璃寺九品仏の修理完了のニュースがありました。「紡ぐプロジェクト」の文化財修理事業で、阿弥陀如来坐像の中尊の修理が完了したとのことです。あとの8体は2022年度に完了するようです。印相などどうなっているか見たいものです。

                               おわり