世界各国の鍼灸事情

鍼灸が今や日本、中国、韓国だけでなく、欧米でも盛んに

行われるようになっています。

そこで世界各国でどのような歴史、制度によって営まれて

いるのか少し調べてみたいと思います。

 

各国の鍼灸事情をみるうえで、やはり中国における鍼灸

歴史は欠かせません。最初に中国における鍼灸の歴史を振

り返ってみます。

鍼灸の歴史は、古代中国、三千年前の甲骨文字にまで遡り

ます。

馬王堆三号漢墓から出土した帛書(はくしょ)は、天文星

他に、医学に関するもの、陰陽五行に関するものなど

が見られ、これらは紀元前2世紀の前漢・文帝の遺物

みられています。

尚、帛とは絹のことで、紙が普及するまでは、竹簡や木簡

など他に絹が使用されていたようです。

 

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帛書『黄帝四経』馬王堆漢墓出土品。

発掘1973-1974、埋設は紀元前168年ごろ

 

 

そして現存する中国最古の医学書と云われる黄帝内経

(こうていだいけい)です。

今日、中医学と呼ばれているものには、漢方、鍼灸

そして導引按摩、推拿(すいな)などが含まれます。

中医学とは、「中国の医学」という意味で、これらの

はすべて『黄帝内経』にあります。『黄帝内経』は

中医学の原点であり、総合医学といえます。

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黄帝内経

「現代中国鍼灸」は、中国大陸の長年にわたる内乱の

歳月から1949年の中華人民共和国の成立により、中国

鍼灸医学を政府が正式に医学として採用、鍼灸学理と

術を国家の施策としてまとめ、普及をはかりました。

しかしながら、その後の「文化大革命」により

「中国鍼灸」は人材、設備など事実上壊滅されてし

まったのです。

文化大革命」の終結が宣言された後は、国家再建

一環として中国鍼灸の復活が着手され、鍼灸理論

整理統一、鍼灸師育成のための教育制度の立て直

などが計られました。

この中医学教育も 年々改革が進んでおり、1956年の

設立当初は北京、上海、成都、広州の四校しかなか

った中医学院も約30校にふえ、いくつかは中医薬大

学となり、機構の改革が行われています。

 

臨床を行うにあたって必要になるのが 医師の資格で

すが、1999年 から「全国統一試験」が導入されました。

近年の世界各国の事情と照らし合わせ、また政府が

「改革、開放」のスローガンのもとで、市場経済

取り入れたこともあり、中国伝統医学の世界にも市

場原理が応用されたのです。

 

資格試験は大きく実践技能試験、総合筆記試験 の

二段階に分けて行われています。

これにより、医師のレベルを全国で統一することが

でき、競争原理を取り入れることが出来たというこ

とです。

そしてこれは、科目の違いはあるにせよ、西洋医学

中医学の医師の区別があまりないということです。

「執業医師」と呼び、中医、西医 の名称の区別はな

く、但し書きで中医、西医の専門が記される

のみです。

医師達は、自由に移動できるようになり、登録すれ

ば自由に開業することができるなど自由が認められ

たのです。

 

中国は、悠久の歴史と広大な国土、 多様な民族性と

いう特徴がありますが、よく「全国統一試験」を、

しかも実技までも導入できたと思うのです。

 

次に韓国についてです。

韓国の伝統医学は「韓医学」と呼ばれており、漢方薬

鍼灸術があります。

韓国の医療体系は西洋医学東洋医学の二本立て体制で、

鍼灸師だけを養成する鍼灸(専門)大学はありません。

韓医学では、西洋医学と同様に6年間の大学教育と4年

間の研修医制度をとり、世界唯一の鍼灸専門医制度を

持っています。

 

韓国の医療制度は、いずれも教育課程が6年間である

西洋医学東洋医学という二本立て体制で、 この二つ

の医療制度は、共存するシステムを保ってきています。

 

このように大学教育の鍼灸師課程も、韓国では6年間

という世界で最も長い教育課程を取っており、さらに

鍼灸専門医になるには卒業後4年間という研修医課程

を受けなければならないのです。

韓国の韓医師は漢方専門医師資格とともに鍼灸の資格

を持ち、鍼灸術と漢薬を併用する東洋医学の総合的な

システムを発展させてきたのです。

 

韓医学部のレベルは、医学部、歯学部より高くなり、

韓国での韓医学の人気ぶりがうかがえます。

 

以上、中国と韓国の鍼灸の制度をみてきたのですが、

日本と大きく違うことが分かります。

 

日本の教育制度は、一部、大学の学科はありますが、

鍼灸師3年間の専門学校が主力で、漢方薬は大学の

薬学部しか開放されておりません。

韓国の大学6年、研修医4年という制度は、鍼灸、漢

方を含み、この期間を要することがよく分かります。

東洋医学は、鍼灸、漢方、按摩で成り立つのであっ

て、日本の鍼灸は、中国、韓国と違い、中途半端な

地位にあることが分かるのです。

抜本的な教育体系、資格制度が望まれます。

 

以前、中国の蘇州大学にて研修したことがあります

が、その時の状況を報告します。

蘇州は上海から特急で1時間位の位置にあり、庭園、

運河の景観が美しいところです。

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蘇州の庭園

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蘇州の運河

蘇州大学付属第一病院での4階に中医関係の診療が

行われていました。その一部屋に鍼灸科があり、

ベッドは6床で診療にあたっています。

主任医師は女性で、他に4名の男性医師(鍼灸師

がおります。

この階は、他に中医科、風湿(リウマチ)科、腫瘍

(ガン)科があり、女性医師が多いようです。

患者は、やはり腰痛、膝痛などの疾患が多いのです

が、西洋医学では治らない片麻痺脳梗塞など

脳神経関係の患者も多い。

 

(患者例1)多発性脳梗塞の中年男性

言語障害、嚥下障害あり)

選穴は、天柱、他胆経、天突、合谷、太衝など。

置鍼し電気パルス、その後脊柱に並べて火罐。

 

(患者例2)1歳半の男子

5ヵ月の時、肺炎による高熱で下半身麻痺)

頭の四総穴、両耳の角孫、肩、臀部に鍼、

背部に吸い玉。

足の指先、足裏に激しく鍼刺激。そして箆

(へら)状の板にて強く刺激を加える。

幼児は痛さに大泣き、その後下半身のリハ

ビリで1時間以上の治療。

西洋医学の見解ではもう治らないと云われた

が、通院して2ヵ月、少しずつ改善とのこと。

 

治療は、簡単な問診の後、いきなり要穴にうち、

そのまま置鍼し電気パルス、そして火罐

(かかん)、吸い玉、灸頭鍼、生姜灸などの

温熱治療と大体治療方法が決まっている。

全体的に治療は強刺激で伝統の脈診による経絡

治療などは行わないようである。

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蘇州大学と研修メンバー
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治療室と灸頭鍼による治療
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電気パルスによる治療

 

また欧米においても、鍼灸は盛んに行われているようです。

例えば、米国における鍼灸です。

米国は一つの国ですが、州は日本の都道府県とは同じでは

なく、州という半独立国の集合体です。

従って、鍼灸の法律とか資格制度などのシステムは、各州

によって異なるということで複雑なのです。

 

という事で、欧米については、またの機会で、失礼します。