今や、コロナの疫病退散に加えて、ロシア退散も祈らなければならないとは、さらにさらに昨夜のような大地震、この地球はどうなるのでしょうか。
さて、本題です。先日の鍼灸治療での不思議な出来事です。患者は、88歳の超高年齢の男性です。最近は80代といっても、男女ともお元気な方が多いようです。
その方は、左肩が痛いということで来院しました。3か月程、整形外科に通っているが、全然改善せず、夜でも痛んで眠れない程とのことです。
東洋医学では、四診と称する診察法があります。望診(神技)、聞診(聖技)、問診(工技)、切診(巧技)です。
望診は、問診をする前に診断が始まります。患者の動作や容姿、顔貌などを見て観察することです。患者の歩き方は、小幅でちょこちょこ歩く、まるでパーキンソン病の症状のすくみ足みたいな歩き方でした。
そのことを患者に告げると整形外科の医者からも云われ、もっと足を大きく踏み出すように云われたとのこと。
しかし、問診で色々聞くのですが、意外にもパーキンソン病でもなく、腰、膝、股関節なども異常ではありません。また、内蔵も特に心配無いと云います。ただ、認知症ですと本人が云っていますが、単に記憶力が衰えているという感じです。
その他問診により、自覚症状、病歴、生活などを聞きますが、あまり異常は無いように見受けられます。
問診を終えて、切診に入ります。切診とは、実際に患者の体に触れ、脈診、腹診などを行います。
脈診(六部定位診)の本治法により、祖脈を診ます。
脈診(六部定位診)については、以前のブログをご参照下さい。
東洋医学における診断 - クマケア治療院日記 (hatenablog.com)
本治法で、脈を平として全体を整えます。その患者の祖脈は、「虚、実は虚」、「遅、数は平」、「浮、沈はやや浮」です。
(参考)
浮脈:軽く按じても拍動が指に感じられる。
沈脈:重く按じてはじめて脈拍が得られる。
遅脈:脈拍が遅く、一呼吸に三拍以下。
数脈:脈拍が速く、一呼吸に六拍以上。
虚脈:拍動が細く弱い。
実脈:拍動が大きく強い。
そして証決定は、腎肺の虚のため腎虚です。選穴は、足の少陰腎経の「復溜」。手の太陰肺経の「経渠」、そして「尺沢」を中心に取ります。何回か繰り返し平とします。
続いて標治法で実際の患部への鍼灸の治療です。
ここで、どういう訳か左右を取り違え、左肩が痛いのに右肩への治療をしていたのです。患部への数本の灸頭鍼による治療です。今まで左右を違えるというような経験は記憶にありません。
しかし、不思議なことが起こるのです。何と、患者が、左肩を示し「先生、楽になりました。」と云うのです。
あれ、痛いのは治療している右肩ではなく、左肩なのかと少しあわてました。さりげなく左肩も治療し、さらに認知症の予防治療、「四神聡」を中心とした治療をして終了しました。
患者は、非常に喜んで、「また痛くなったら来ます。」ということで帰って行きました。結果的に3か月も整形外科に通って治らなかった左肩痛が1回の鍼灸治療で治ったことになります。
それでは、なぜ治ったかということです。思い当たるのは「幻肢痛(げんしつう)」の鍼灸治療です。
幻肢痛とは、事故などで腕や足を失ったあとに、あるはずもない手や足の感覚があり、そこに痛みを感じる状態を云います。失った人の60~80%で生じるとされています。
この幻肢痛ですが、我が母校、東洋鍼灸専門学校の創立者、柳谷素霊氏の治療を思い出しました。
幻肢痛の無くなった手の治療を、反対側の存在する手を治療して治したという伝説の話です。
柳谷素霊氏は、鍼灸医学界の世界的な権威者で鍼聖と称された方です。わたしの記憶では、柳谷素霊氏が国際鍼灸学会の招聘を受けて渡欧したとき、訪問したフランス、ドイツ、イタリアなどで日本鍼灸が一躍脚光を浴びたときの治療だったと思い返します。
話は治った原因に戻して、本治法、陰陽五行論とも関係していると思われます。本治法では、標治法をすることなく、脈を平にして治ることもあります。
また、陰陽五行論では、左が陽、右が陰の関係があり、これとも関係していると思われます。
このように、理由は定かではありませんが、人間の自然治癒力を引き出す東洋医学は、本当に不思議な医学であると感じるのです。
おわり