東洋医学における診断

 以前のブログで東洋医学における診断で「脈診」のことを書きましたが、今回はそれによる実際の臨床の話しです。

脈診は、おそらく2~3世紀頃の古代中国の医学書『難経(なんぎょう)』の六十九難の法則によってツボ(経穴)を選ぶやり方です。

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脈診の部位

 上の写真のように橈骨動脈の部位(寸、関、尺)の左右の脈各3点から脈状、脈差によりどの経絡、経穴かを判断します。六部定位(りくぶじょうい)脈診と云います。

 

実際の症状で例を挙げますと、中高年の女性に共通して多い疾患に冷え、便秘、不眠などがあります。

 冷え性は殆どが女性ですが、原因は、大半が瘀血か血虚に関係しています。女性は月経や出産の関係で瘀血や血虚になりやすいのです。 中高年の女性の瘀血による冷えは、肺虚肝実証が多いですが、脈診で肺虚を確認します。

左    右

◎  肺

肝      〇  脾

腎          心包

肺虚の脈の形。◎:脈強 〇の大きさが脈の強さを表わし、肺、脾の虚があります。

瘀血ができると内に血が停滞しており、外の気血の循環が悪くそのために冷えるのですが、上半身は温かく、下半身が冷える、まさに上実下虚の状態です。

 肺虚の本治法で取る経穴は、太淵、太白です。太淵は、手の太陰肺経の原穴で、太白は、足の太陰脾経の原穴です。

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 太淵の位置は、親指の付け根あたりで、手関節前面横紋、橈側端陥凹部、橈骨動脈拍動部で、触れると軽く脈打っています。

 太白の位置は、足の親指関節の後、内側陥凹部に取ります。

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まずはこの2経穴を補います。

 そして標治法は、三陰交、足三里、腹部の胃経の天枢、そして関元、石門、背部の腎兪、関元兪を取ります。三陰交、足三里は灸頭鍼がよく効きます。

 

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三陰交

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足三里

 次に便秘の病理ですが、陰虚によるものと瘀血による便秘があります。陰虚によるものは、津液が虚したために発生した熱が腸に波及して起こるものです。これには、肝虚と腎虚脾虚の各陰虚熱証があります。

 瘀血によるものは、血に熱が加わり、同時に津液が不足すると発生します。ですから瘀血があると固い便か便秘になり易い。証として脾虚あるいは肺虚の肝実です。

治療経穴としては脾虚の本治法の場合、脾経の大都と心包経の原穴の大陵を補います。

左         右

心      肺

      〇    脾

腎       心包

脾虚の脈の形。◎:脈強  〇の大きさが脈の強さを表わします。

 そして、標治法の治療経穴では、膀胱系の承筋、承山、背部の胃兪、脾兪そして腹部の中脘、肓兪に取ります。

このように、三陰交、足三里に灸頭鍼そして腹部と背部の仙骨部あたりに棒灸を施術するのは共通の有効な治療法です。

 

 東洋医学の脈診による診断には、基本的にこのような経絡治療を行っています。

                        おわり