正倉院の世界

天皇陛下の御即位を記念し、正倉院宝物を中心とした展示会が東京国立博物館でいよいよ開催しましたので、早速、観てきました。

正倉院宝物と併せて、法隆寺献納宝物という日本を代表する文化財が展示されており、見応えがあるものでした。

正倉院宝物は、光明皇后が、聖武天皇の遺愛品をはじめとする品々を、東大寺大仏に捧げたことに由来し、日本で製作された美術工芸品や文書類だけでなく、中国から持ち込まれた品々も数多くありました。

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ポスター

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展示している東京国立博物館平成館

第1会場は、聖武天皇光明皇后ゆかりの品を中心に、また第2会場は、宝物を守る観点から、本物と模造の品を両方展示しているものもあり、展示の仕方も随所に、工夫のあとが見受けられました。

目に留まった文化財について少しふれます。

 

海磯鏡

螺鈿八角鏡は、残念ながら後期展示でしたが、海磯鏡(かいききょう)が展示されてありました。

海磯鏡は、国宝に指定されている法隆寺献納宝物で、直系50㎝もあろうかと思える青銅製の大型鏡です。

鏡でこのような大型の物を初めてみました。736年に光明皇后聖徳太子の命日に法隆寺に奉納されたものです。

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海磯鏡

鳥毛帖成分書屏風

鳥毛帖成分書屏風(とりげじょうせいぶんしょのびょうぶ)は、聖武天皇の遺愛の漢文を設(しつら)えた、大型の屏風で、キジやヤマドリの羽毛が文字に使われています。

同じヤマドリの羽毛が使われています、「鳥毛立女屏風」は、奈良国立博物館に展示されているようです。天平美人を描いた天平文化の至宝で、一度見てみたいものです。

 

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鳥毛帖成分書屏風

黄熟香(おうじゅくこう)

黄熟香は、国宝を超える御物と呼ばれ、1.5m位の大きさの超弩級の宝物です。

1200年たった今も、香りが残っていると云われる香木で、法隆寺献納宝物の沈水香とともに、伝説の香木です。

黄熟香は、別名を蘭奢待(らんじゃたい)と云い、その文字のそれぞれに「東大寺」の名が隠れております。

足利義政織田信長明治天皇が削り取った跡がありました。それにしても凄い宝物で、江戸時代に創られた収納箱も展示されてあります。

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黄熟香 左:明治天皇、中央:織田信長 右:足利義政の切り取り跡


墨絵仏像

雲に乗った菩薩の姿を麻布に墨で描いた墨絵仏像は、おおらかな菩薩の表情は見事です。

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墨絵仏像

花氈(かせん)

花模様のフェルトの絨毯ですが、中央に、球技のポロをする女性が描かれていましたが、8世紀の唐時代の作品です。この時代に、ポロがペルシャなどから伝わったのでしょうか、興味深いところです。

 

 

以上が目に付いた第1会場の展示品です。

 

第2会場は、入った途端、今回の展示会の目玉、螺鈿紫檀五絃琵琶(らでんしたんのごげんびわ)の世界です。

螺鈿紫檀五絃琵琶

古代インドに起源を持つ五絃琵琶ですが、シルクロードで唐に伝わり、唐の最高工芸技術で制作され、それが、遣唐使を通じて日本に渡ったものです。世界に残る唯一の古代の五弦琵琶なのです。

中国にもこのような最高傑作は残っておりません。

フタコブラクダに乗り、五弦の琵琶を奏でる西域人、はるか昔のシルクロードの香りが伝わって来るようです。

 

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螺鈿紫檀五絃琵琶


 

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琵琶をひく西域人

復元模造の五絃琵琶も展示しておりました。

この復元は、日本の現代工芸の最高技術者である指物師螺鈿細工の漆芸家、鼈甲(べっこう)職人、そして雅楽の関係者などで、復元再現したのです。唐の最高芸術品を、忠実に復元できる技術が、現代の日本に残っていることに驚きを禁じえません。

 

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復元された模造の五絃琵琶の展示

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 説明書き

伎楽面(ぎがくめん)

伎楽面は、日本への伝来元である中国や朝鮮半島には現存せず、日本にのみ残されています。古代日本で演じられた仮面舞踊劇である伎楽に用いられた世界最古の仮面です。

7世紀初めに,百済から将来されたといわれています。

展示は、伎楽面酔胡王で、酒が大好きで、酒焼けした赤ら顔の酔っぱらいの伎楽面です。これも模造の面を展示されております。

本物は、色がおち茶色の顔をしておりますが、模造の作品は、綺麗な朱色です。

 

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伎楽面酔胡王

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模造伎楽面 華やかな唐花文様の帽子をかぶり、馬の毛で作ったひげをつけています。

佐波理水瓶

佐波理とは、銅を主体とした錫・鉛の合金で、磨くと黄金色の光沢ある色を呈します。

「さはり」の語は、本来外来語で「沙布羅(さふら)」という朝鮮半島からの語という説があり、様々な漢字が当てられています。

胡人風の人面の受水口が、特徴的な水差しです。

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佐波理水瓶

甘竹簫(かんちくのしょう)

日本には、奈良時代に中国から唐楽の楽器として、伝わったものです。この甘竹簫は、18本の管の楽器ですが、明治期に誤って12本の管楽器として修理されました。

それを新たにみつかった部品で18本の管で一つの楽器であると判明して、作り直しています。

パンパイプ型で、ペルーなどアンデス地方サンポーニャとよく似ています。

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甘竹簫

塵芥

塵芥の展示とは珍しいですが、明治時代に大掃除して出た塵芥を全て保存しているそうで、塵芥を整理し続けており、塵芥の中から宝物の一部が発見されることもあると云います。

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塵芥


以上、さすがの宝物ばかりですが、トーハクの後期や奈良国立博物館にも、貴重な宝物が展示されるようなので、注目です。

1300年にわたって、この様な正倉院宝物、そして法隆寺献納宝物を、守って来た宮内庁正倉院事務所をはじめ関係者のご努力に、謝意を表すと共に、これからも後世に伝えるその使命は、大きいと思います。