(続)正倉院の世界

後期の「正倉院の世界」展も先日、終了致しました。終了日近くの平日に、行ってまいりました。

前期展示は、殆ど並ばずゆっくり鑑賞出来たのですが、後期は大変な混みようで、整理券による1時間半待ちでした。

中に入っても混雑してゆっくり鑑賞できませんでしたが、後期の展示も見応え十分でした。

今回の正倉院展は、「正倉院宝物」とともに、「法隆寺献納宝物」が展示されております。「法隆寺献納宝物」について少しふれておきます。

1868年の「神仏分離令」が発布され、「廃仏毀釈」という仏教排斥運動が起きました。

全国の仏教寺院は、破壊され、仏像や寺宝の流出・散逸が相次ぎ、存続の危機にさらされました、

聖徳太子ゆかりの寺院である法隆寺も例外ではなく、寺領を失って疲弊し、伽藍や寺宝の維持もできなくなってしまったのです。

これ程、仏教破壊が進むとは思わなかったのでしょうか、明治政府は、1872年(明治4年)、文化財保護を目的に、「古器旧物保存令」を出し、すべての寺宝の台帳を作成しました。

こうした中、法隆寺は、主要な寺宝、三百余点を「法隆寺献納御物」として皇室に献納する決断をしたのです。

明治政府は、伽藍の修理等の費用として、下賜金を法隆寺に与え、法隆寺はこれによって堂塔の修復や寺院の維持が可能になりました。 「献納御物」は、「帝室宝物」となり、東京上野に新設された博物館(現東京国立博物館)で保管、展示されることになったのです。

しかし、「唐本御影(前回ふれた聖徳太子及び二王子像)」や「法華義疏(ほっけぎしょ)」など、特に皇室とゆかりの深い十二点は、宮内庁のお持ち帰り品、「御物」として皇室の保有となったという経緯があります。

 

今回「法隆寺献納宝物」は、竜首水瓶や伎楽面酔胡王、海磯鏡など多数展示されておりました。

後期の見所は、平螺鈿八角鏡と白瑠璃碗と思っていたのですが、その他にも幾つか目に留まるものがありましたので、簡単に紹介します。 

まず、今回のポスターにも載っている、平螺鈿八角鏡(へいらでんはいのはっかくきょう) ですが、白い螺鈿(夜行貝の真珠層)の中に赤い琥珀が映えています。

盛唐の則天武后を思わせるような華麗な装飾でした。

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螺鈿八角鏡も載っているポスター



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螺鈿八角

 

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螺鈿八角鏡部分

そして白瑠璃碗(はくるりのわん)です。

 

ササン朝ペルシアで製作されたものといわれ、やはりシルクロードからの香りが漂ってきます。

口径12cmのカットグラスの椀で、ひとつの切子に、反対側にある幾つもの切子が反映され、輝く美しさが映し出されている見事なものでした。

この椀は、正倉院東博所蔵のものと二つ展示されておりましたが、東博所蔵のものにはヒビ割れが入っていて、惜しまれます。

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白瑠璃碗

竜首水瓶(りゅうしゅすいびょう)は、前述の「法隆寺献納宝物」(現東京国立博物館に収蔵)の一つです。

唐時代中国の作と考えられてきましたが、龍の造形や毛彫の手法などから、7世紀の日本製とする見方が強くなっています。

竜をかたどる蓋と把手を付けた勇壮な姿の水瓶で、胴には四頭のペガサス(天馬)を線刻で表わしています。

ササン朝ペルシャに源流をもち、東洋と西洋にそれぞれ起源をもつ竜とペガサスの意匠がよく調和しています。

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竜首水瓶



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いかめしい顔の龍頭が注口

その他に、白石鎮子(はくせきのちんす)と呼ばれる大理石のレリーフがありました。四神と十二支をそれぞれ二つずつ組み合わせていますが、前期は、青龍・朱雀そして今回後期は、白虎・玄武です。

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白石鎮子(はくせきのちんす)

また、前期の螺鈿紫檀五弦琵琶の代わりに(模造は展示)、紫檀木画槽琵琶(したんもくがのそうのびわ)が展示されておりました。

長梨形の胴と曲がった頚を持つもので、ペルシア起源の四絃琵琶です。

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紫檀木画槽琵琶

そして、校倉造り高床式の正倉院や年に1度「開封の儀」によって宝庫の扉を開ける「勅封(ちょくふう)」も再現されておりました。

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 高床式の正倉院と勅封の再現

わたしが行った1日前に、入場者30万人に達したとのニュースがありましたが、やはり正倉院人気は相当なものです。